空のいろ
「桜さん。俺さ、本社に異動になった」

「え?」

 想像もしていなかった突然の報告に、頭が真っ白になった。

 音が、消えた。
 今までうるさいくらい鳴いていた蝉の声が消えた。車の音も、全ての音が消えた。
 一瞬で無音の世界になった。

 見つめた笹木課長は、笑顔で話を続ける。

「本社で、部長を任されることになったんだ」

 そんなこと、笑顔で話さないで下さい。

「おめでとう、ございます」

 かろうじて絞り出した言葉。感情なんてこもってない。
 だけど、浮かれているらしい笹木課長は気付かない。

「だから、ここで桜さんと会うのも今日で最後」

 今日で…?

「…横浜支店にはいつまでいらっしゃるんですか?」

「本当は今日までなんだけど、残務処理が終わらないから、明日の土曜日に休出。で、9月3日の月曜日から本社勤務」

「そう、なんですか」

 本当に、今日が、最後。

 もう、会えない。


 笹木課長が、本社の事や家族で東京に引っ越さなければいけない、そんな事を言っていたけど、私の頭には入ってこなかった。








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