愛しい遺書
「キョウヘイ今、彼女いないんだって!」

マナカが小声で言った。

「めっちゃ気ぃ合うんだよね!」

「よかったじゃん」

あたしは夜風に肩をすくめながら言った。

「あたしマジで攻めてみるわ!キキも頑張ってね!」

マナカはそう言ってあたしの手を握った。

あたしは何も言わず笑顔で返した。


駐車場に着くと、マナカは車の鍵をキョウヘイに渡し、助手席に乗り込んだ。あたしとショウジは後部座席に座った。

「じゃあな!気ぃつけて帰れよ!」

キョウヘイは運転席の窓を開け、カイとケンタに向かって言った。2人は「お疲れした!!」と言うとナンパした女の子を後ろに乗せて走りだした。

キョウヘイも後に続くように車を出した。

前の席では、マナカとキョウヘイが楽しそうにお喋りしている。

あたしはその話し声をBGMでも聞くように、窓の外のネオンを見ながら聞いていた。外は少しずつ白んできていた。

ふいにショウジがあたしの手を掴んで、冷たかった指先がじんわり温かくなるのを感じると、ゆっくりと睡魔が近づいてきた。

「……ヤバイ。眠くなってきた」

あたしは正直にぶっちゃけた。

「着いたら起こすよ」

そう言ってショウジは自分の肩にあたしの頭を寄せた。

あたしは静かに目を閉じた。





「キキ。起きて。ショウジの家に着いたよ」

マナカがあたしの肩を叩きながら言った。

ショウジの肩に寄せていたはずのあたしの頭はいつのまにか反対側の窓にくっついていた。

「ショウジ先降りて車暖気しに行ったよ」

「そう……」

あたしは大きくあくびをしながら言った。

車から降り、思いっきり背伸びをして辺りを見渡した。閑静な住宅街といった感じだ。

「目ぇ覚めた?」

ショウジが煙草をふかしながら戻って来た。

「うん……おはよ」

そう言って煙草をくわえるとショウジがまたいいタイミングで火を付けてくれた。

「じゃあね!キキ後で電話する!」

マナカが手を振りながら言った。

あたしは頷き手を振った。

< 16 / 99 >

この作品をシェア

pagetop