愛しい遺書
ショウジはその時の事を、笑うわけでもなく真顔で話した。

「あはは……かーちゃんって」

「最初はそんな終わり方にした事わりぃなって思ったんだけど、1ヶ月も経たないうちに他の男ん家に転がり込んでよ。後で探ったらオレと暮らしながらそっちとも同時進行してたって。ひでぇだろ」

「それはひどいね」

「だろ?だから……」

ショウジは言い掛けてやめた。

「……?」

あたしは次の言葉を待った。

「いや。……なんでもない」

そう言ってショウジは食べ終わった殻を一つにまとめた。

あたしは気になったものの、「そう……」と言ってポテトを口に入れた。





食べ終わると煙草に火を付けた。お互いに口を開くこともなく、沈黙が続いた。その空気がいやで、あたしはテレビをONにすると、コーヒーのCMが流れていた。

「コーヒー飲む?」

「飲む」

ショウジの返事を聞くと、あたしはキッチンに向かい、コーヒーを2人分入れた。

テレビには海外の通販番組が流れていて、あたしたちはそれを茶化して笑いながらコーヒーを飲んだ。

空になったカップをテーブルに置くとショウジは「ごちそうさま」と言って車の鍵を握った。

「……んじゃ、帰るわ」

そう言いながらスターターでエンジンをかけた。

「そう。じゃあ車まで送る」

ショウジが立ち上がったのと同時に、あたしも立った。

車まで向かう途中、ショウジが携帯の番号を聞いてきた。あたしは偽る事なく素直に教えると、そのままワンコールした。

「……今度オレん家にも来て」

「ありがと。でも道が……」

「心配すんな。オレが迎えに来るよ」

「うん」

「またここに来てもいい?」

「いいよ」

「あ、店にも行っていい?」

「うん。いいよ」

そこまで聞くと、ショウジは安心したように車に乗り込んだ。そして窓を開けた。

「古谷 翔士……こうやって書くから」

そう言ってバイザーに挟んであった免許証を見せてくれた。あたしはそれを見ながら携帯に登録した。

「あたしは磐世 祈璃子」



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