愛しい遺書
「今回は8組ステージ入るから、前座って感じで」

「…じゃあ4・5曲くらいでいいですか?」

「うん。そうだね。曲の注文はないから、ジャンルはレゲエで適当に」

「わかりました。梅さんと打ち合わせしときます」

「お願いね」

あたしはフライヤーをきれいにたたんでポケットにしまった。





昨日は1日中明生と一緒だった。

明生は目が覚めると眠っているあたしの体を、子供がおもちゃで遊ぶようにまさぐってきた。あたしが寝呆けながらも目を覚ますのを確認すると、明生は何度もあたしの体に入ってきた。

終わると子供のように、

「お腹へった。ご飯食べたい」

と悪戯っぽく言うから、

「だったら普通に起こしてよ」

とあたしが言うと、

「じゃあオレが興奮しないように婆パン履けよ」

と、わざと不貞腐れたように言った。

「婆パンって!履いたげるから買って来てよ」

あたしは爆笑しながら服を着て、キッチンに向かった。

「やだよ!あんなもんオレがマジマジ選んでたら親孝行だって勘違いされるじゃねぇか」

そう言って明生もパンツとデニムだけを履いて、リビングのソファーに座った。

「あたしが選んでても親孝行じゃん」

冷蔵庫に頭を突っ込み、中を物色しながら言うと、明生は

「なんとかなんじゃね?化粧しねぇで行けば」

と笑いながら言った。

あたしは物色中に見つけたオレンジを握ったまま、その手で中指を立てて明生を睨んだ。

明生はあたしを見て爆笑した。そして、

「お前のそーいうトコ、すっげえいい」

と言った。あたしは内心飛び跳ねるくらい嬉しかったが、知らんぷりして冷蔵庫をあさった。

「世の中の女、みんなお前みたいだったらいーのにな」

煙草をふかしながら後に続けた明生の言葉に、あたしは冷蔵庫に頭を突っ込んだまま、

「一言多いんだよ。バカ」

と、聞こえないように呟いた。

< 24 / 99 >

この作品をシェア

pagetop