愛しい遺書
ダルい体をやっと起こし、クローゼットに向かおうとすると、携帯が鳴った。電話の相手は翔士だった。あたしは気まずくなって携帯を置き、鳴り止むのを待とうとした。

「出りゃいいじゃん」

煙草に火を付けながら明生は言った。

「……」

あたしはゆっくりと携帯を掴み、出た。

「もしもし」

「あ……翔士だけど」

「うん…」

「寝てた?」

「……うん」

意味は違うけど、寝てた事には間違いない。

「ワリぃな。起こして」

「ううん。気にしないで」

「……声、聞きたくなって」

「アハ。そーなんだ」

「これといってなんもないんだけど」

「……なんか、緊張してる?」

「……酒抜けたからな」

「アハハ」

明生が隣で聞いていると思うと、なんとなく気まずく感じたあたしはまたクローゼットに向かおうとしたが、明生に腕をロックされた。明生は吸っていた煙草を揉み消すと、また首筋に噛み付いてきた。あたしが無理矢理離れると、明生は悪戯っぽく唇の片側の端を上げて笑った。あたしの心はジワッと潤んで、翔士と会話していた事を一瞬忘れた。

「キキ?」

「あ。ごめん。寝呆けてた」

かなり苦しい言い訳だと思ったが、翔士は素直に信じてくれた。

「今度ちゃんと会ってよ」

「……うん」

「いや?」

「ううん。やじゃないよ」

「よかった……また電話する」

「うん」

「……じゃあ」

「うん。ばいばい」

電話は切れた。あたしは携帯を置くと何も言わずクローゼットに向かった。明生もベッドから離れると、Tシャツを着た。

「どこ行くの?」

「え?」

「買い物」

「あ……サティ行く」

そう言うと明生は自分の車にスターターでエンジンをかけた。

「仕方ねぇ。乗せてってやるよ」

「……いいの?」

「……オレのせいで出るの遅くなっちまったからな」

そう言うと明生はまた唇の片側を上げて笑った。

「ついでに婆パンも買ってくるべ」

「……バカ」

あたしは戯れるように明生をパンチした。

< 26 / 99 >

この作品をシェア

pagetop