愛しい遺書
買い物を済ませ、家に着いても明生はまっすぐあたしの部屋に入り、結局朝まで一緒にいた。その間、何度も女から着信があったが、明生は全てシカトした。

「出ないの?」

と聞くと、

「面倒クセェ。出掛けるって言えば、一緒に行くっつうし、腹いてぇって言えば看病してやるっつうし。他の女と会うって言えば、その後でもいいって言うし。シカトが一番」

缶ビールの蓋を開け、飲みながら明生は言った。

「それでよく酷いめに遭わないね」

あたしが言うと、

「その程度の女しか寄って来ねぇからな」

と笑いながら言った。

あたしもその程度の女の一人。そう思うと内心イラッとしたが、それでもどこにも行かず、一緒にいてくれる明生にあたしは嬉しく感じた。

「でも、お前は違う」

「……どういうこと?」

「オレの考えてる事全部見透かされてる感じだな。オレに対してくる者拒まず、去る者追わずみたいな?だからお前といると頭使んなくてすげぇラク」

「あっそ」

素っ気なく答えたがものの、あたしは特別だと言われたような気がして、にやけそうになる顔を抑えるのに必死だった。



夕飯の時間になると、明生がジャンクがいいと言って宅配のピザを頼んで食べた。一緒にお風呂に入り、上がった後、あたしは明生の背中まであるドレッドを乾かした。これはあたしの仕事になりつつある。ドレッドの状態を良く保つ為に、明生は3・4日に一度髪を洗う。その日は必ずといっていい程、家にお風呂を入りに来る。上がった後はあたしが髪を乾かすのが、自然な流れになってしまった。そしてもう一つ恒例になったのが、明生の髪を乾かした後、あたしの髪を明生が乾かしてくれるのだ。この時が、あたしの生活の中で一番幸せな時間だ。いつのまにか腰まで伸びた髪に、感謝せずにいられない。

ビールにもなくなり、テレビも見飽きて、気が付くと夜中の1時を回るところだった。

「寝るかな。オレ明日客入ってるから、9時には出なきゃなんねーし」

ソファーに座ったまま、背伸びをしながら明生は言った。そして立ち上がると自分の部屋のようにあたしの寝室に向かった。

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