愛しい遺書
「何飲む?ビールとコーラとアイスティーと……」

「アイスティーがいい」

「オッケー」

そう言うと翔士は2つのグラスに氷を入れてアイスティーを注ぎ、テーブルに置いた。テレビをつけるとあたしの隣に座り、煙草に火を付けた。急に陽気な音楽がテレビから聞こえ、「今日の12星座占い」が始まった。

「キキ何座?」

「あたし、しし座。翔士は?」

「オレやぎ座」

各星座の順位が映し出され、やぎ座が1位、しし座は最下位だった。翔士は舞い上がり、あたしはヘコんだ。

「でも大丈夫!しし座の皆さんのラッキーアイテムは『龍の置物』です!ぬいぐるみでもいいですよ〜!良い1日を過ごしてくださいね!」

あたしはイラッとした。

「……なんで龍限定なわけ?どこの家にもあるヤツにして欲しいよね。」

すると翔士は吹き出した。

「わかる!オレ前に『柄物のレギンス』って言われてよぉ。最下位なのに更にヘコまされたし!きっとこういうのって女目線なんだろうな」

「……柄物のレギンスって」

あたしは翔士のレギンス姿を想像して爆笑した。

「頼む!想像すんな!」

翔士はあたしの頭を両手で軽く押さえた。

「ごめんごめん」

あたしは笑いを堪えながら言った。

「しし座って何月?」

「8月」

「なの?もーすぐ誕生日じゃん」

翔士は部屋のカレンダーを見ながら言った。

「何日?」

「1日」

「23になるんだっけ?」

あたしは頷いた。

「そっか。じゃあ、祝おうな」

そう言って翔士はあたしの手を握った。

誕生日まで、まだ2ヶ月もある。翔士は自分の傍に2ヶ月先もあたしの存在がある事を願っている。でも、その時あたしはどうなってる……?

一瞬明生の顔が浮かんだ。

1年以上、何の進展もなかったのに、この2ヶ月で何かが起きるなんてあり得ない。あたしは無理やり頭の中の明生を消した。

「うん。楽しみにしてる」

そう言うと翔士はあたしの返事が予想外だったという顔をした。

「マジで!?いーの!?」

あたしは微笑みながら頷いた。

「先に約束したもん勝ちでしょ」
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