愛しい遺書
すると翔士はソファーの上に勢いよく正座して、あたしの方に向いた。

「プレゼント、何がいい?何でも言って」

「……うーん……なんでもいいよ?」

「じゃあさ、考えておいて」

「……わかった」

翔士はソファーから降りるとカレンダーの前に立ち、8月1日に丸を付け、「キキ」と書いた。

「……たんじょうびの『たん』ってどうやって書くっけ?」

「ひらがなでいいじゃん」

「そーだけど……」

そう言いながらも気になるのか、翔士は自分の手の平に何度も指で試し書きをしていた。あたしは見かねて立ち上がり、翔士からペンを借りるとカレンダーに「誕」という字を書いた。

「あ!そうだ。これだ」

翔士はモヤモヤが晴れたといった感じの口調で言った。あたしはそのまま続けて「生日」も書き、調子に乗って猫や花の絵も描いた。悪戯っぽく笑いながら振り返ると、翔士はあたしを強く抱きしめた。その弾みであたしはペンを床に落としてしまった。翔士はゆっくり離れるとあたしの顎を軽く掴み上を向かせ、キスをした。こうなる予感はしていたものの、明生とは違うキスの感触に、あたしはドキドキしていた。

翔士はあたしの片足を持ち上げ、壁に押した。あたしはされるがままに壁に寄りかかった。翔士が唇を剥がし、ゆっくりと首筋に舌を這わせるとあたしは思わず小さく鳴いた。その声で翔士は抑えていたものが溢れだしたように、太股を撫でていた手でドレスの裾を捲り、あたしの尻をあらわにした。片足でようやく踏張っていたあたしの足は、翔士の舌が首筋から鎖骨に動く頃にはガクガクして立っていられなくなった。膝から崩れ落ちそうになったあたしを、翔士は素早く抱き上げた。

「…………。」

我に返ったように頭をポリポリ掻いた翔士は何か言いたそうにしていた。

「…………?」

あたしは翔士の顔を覗きこんだ。

「……やべぇ。わかんねぇ……」

翔士は壁に寄りかかっているあたしを包むようにもたれかかり、恥ずかしそうに言った。

「成り行きじゃねえ、惚れた女をベッドに誘うにはどーしたらいいんだ……」

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