極上な恋をセンパイと。

季節は冬の匂いがグッと深まる11月。

肌を撫でる風がヒンヤリと冷たい。
空は真っ青に澄み渡り、肺を満たす空気は澄んでいた。



……はああ。


そんな清々しい朝に、気が重い。

家を出てから、何度目かの溜息に自分でもうんざりした。


急ぎ足で行き交うサラリーマン。
その波に乗って、いつも通りの時間に職場へとたどり着く。


大きなビルの、大きな入り口には人々がまるで吸い込まれるように消えていく。

一瞬立ち止まって、それでも重たい足を何とか進めた。



あたしをそうしている原因は……。



「おはようございます、佐伯さん」


う。
今日も早速来たな……。

ピクリと動いた眉もそのままに、あたしはぐるりと振り返った。



「おはよう、白鳥さん」



たぶんものすごーく嫌味な笑顔だと思う。
頬が固いのが自分でもわかる。

そんなあたしに、白鳥百合は花のような笑顔を振りまいて小首を傾げた。



「今日こそ、協力してもらいますよ?」

「……あの。そう言うのは、自分で誘った方がいいと思いますよ?何度も言いますけど」

「だってあたしが誘っても、久遠さんってば頷いてくれないんだもん」

「……」



それをあたしにどうしろと。

思わずジト目になってしまい、それでもこうも毎日交渉にくるあたり、ある意味感心してしまう。

この人は、人目を気にしない。
休憩時間に欠かさずあたし達のオフィスへやってくる。
久遠センパイへの好意を隠さない。


あたしは……隠すの必死だもんなぁ。
なぜか肩を並べて歩く白鳥百合を横目で眺めた。

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