極上な恋をセンパイと。

「はい!生おまち」


威勢のいい声と共に豪快に目の前に置かれたのは、今にも泡が零れてしまいそうなビール。
慌ててそれを持って顔を上げた。



「課長、お疲れ様です」

「お疲れさま」


チンと小さくジョッキを合わせた。

すぐ隣には、スーツを脱いだ時東課長。
グイッとビールを仰いだ課長の横顔をチラリと盗み見た。


課長に誘われるなんて、初めて……。
よっぽど疲れてたんだろうか。

ここは駅近くの立ち飲み屋。

カウンターだけの狭い店内は、会社帰りのサラリーマンで埋め尽くされていた。


時東課長はカウンターに体を預けるように腕を乗せると、あたしに視線を落とした。


久遠センパイよりも、少しだけ高い目線。

課長はフワリと目元を緩めると、ビールをクイッと仰いだ。


「はあ。疲れ飛んだ」

「ふふ」


少しおどけるようにそう言った課長の笑顔。
癒されるなぁ。


なんとなくわかってしまった。
もしかしたら課長は、休憩室であたしの様子を見てしまって。
それで、気にして飲みに誘ってくれたんじゃないかって。

……また、心の中が軽くなった。



「ありがとうございます」

「ん?」

「いえ。なんでもないんです。でも、ありがとうございます」

「どう、いたしまして?」


どうしても伝えたくて、そう言うと課長が首を傾げた。

不思議そうなその顔が可笑しくて、失礼かなと思いながらもクスクス笑ってしまった。
そんなあたしを見て、課長の目が一瞬大きく見開かれた。
それからふっと笑うと、まるで懐かしむようにこう言ったんだ。



「そういう所、変わらないな」



え?

< 121 / 243 >

この作品をシェア

pagetop