極上な恋をセンパイと。
いきなり腕を掴まれたと思ったら、気がついた時には背中に冷たい壁の感触があった。
頭が追いつかない。
状況が理解出来ない。
ただわかるのは、あたしの思考を鈍くする甘いムスクの香りだけ。
薄暗い、会議室。
見上げた先には、真っ直ぐにあたしを見下ろす、久遠和泉。
真っ黒な前髪が落ちて、逆光になったセンパイの顔をさらに曖昧に映す。
「え、あの、どうしたんですか?」
無表情のセンパイからは、なんの感情も読み取れない。
ただ、掴まれた腕がその存在を主張するようにジワリと熱をもった。
う……。
怖くて、その視線から逃れるように俯くと、すぐに顔の横に腕が伸びて逃げ場がなくなってしまう。
さらに近づいた距離に、クラクラした。
「センパイ?」
やっとの思いで、震える唇から声を絞り出したその時。
「……お前さ」
低くて掠れた声が、耳たぶをかすめた。
瞬間、カッと身体が熱くなり、条件反射のように視界がジワリと歪んだ。
「あんな目で俺を見んなよ」
「え?」
あんな……目?
わけがわからなくて、至近距離でセンパイの瞳を覗き込む。
すると、その瞳は意地悪く細められた。
「……ど、」
どういう意味?
そう言いかけた言葉を遮るように、いきなり唇が奪われた。