極上な恋をセンパイと。

と、その時。
視線を感じて顔を上げた。


「……な、なに?」


見ると、白鳥百合がジーッとあたしを睨んでいる。


「どうしてあなたなの?」

「え?」


意味が分からなくて、首を傾げると白鳥百合は大きくため息をついた。


「どうして久遠さんはアンタなの?どっちかっていうと”普通”のアンタを」

「普通で悪かったわね。……ケンカ売ってます?」

「事実でしょ? あたしを見なさいよ。才色兼備ってのはあたしみたいなのを言うの」

「……それ、自分で言う?」


ほんと、何言ってるの?

久遠センパイがなんだってのよ。
確かに、おもちゃだって思われてる気はするけど……。

それって、面白がってるだけじゃないのかな……。


乳白色に揺れるお湯を見つめていると、うんざりしたような声で白鳥百合が言った。



「はぁーあ。そうやってずっと受け身でいればいいわ。あたしはそんなの嫌。欲しいものは欲しいし。手に入れるためならなんだってするんだから。
だから、今日もしあたしが久遠さんと部屋に入ったら、そこは察してよね」

「……ど、どういう事?」

「わかんないならいいわ。とにかく部屋は明け渡して」

「……」


思わず押し黙る。

言い返したいのに、白鳥百合の強い想いに言葉が出てきてくれなかった。



……受け身……?

あたしだって……、あたしだって久遠センパイが欲しいよ……。
からかわれるんじゃなくて、愛されたい。
センパイに大事にされるって、どんな感じなんだろうってずっと思ってる。




「……」


さっさと出て行く白鳥百合の足音。

流れるお湯の音と木々を揺らす風の音が、それをすぐにかき消してしまった。

< 138 / 243 >

この作品をシェア

pagetop