極上な恋をセンパイと。

震える手で浴衣の胸元を抑えて、あたしは転がるように回廊を走る。

やっと見えてきた自分の部屋。
おぼつかない手つきでカードキーをさして、薄暗い部屋に飛び込んだ。




――――パタン。

扉の閉まる音が、やたら耳に付く。


「……」


そのまま動き出せずに、ズルズルと床に崩れ落ちた。


ドクン
ドクン


心臓の音、うるさい。




「なんなの……」



ようやく出た言葉は震えていて。
あたしはキュッと目を閉じた。


あそこまでしておいて……、やめちゃうなんて酷過ぎる。

『俺のモノ』ってそう言った意味は何?
俺の、オモチャだって……そう言う事なの?

だから、キスの先はしてくれなかった。
あたしがこれ以上本気になったら困るから。



そうなの?


聞きたくても、煙草をくわえたセンパイがいつもよりも大人びていて。
月明かりに照らされて、すごく綺麗で……

聞けなかった……。




ずるい。

センパイは、あたしの気持ち気付いてるんだよね?

それなのに……こうされるって事は、やっぱり遊ばれてるのかな……。




さっきのセンパイのキスで、身体はこんなに熱いのに。
心ばかりが冷えていく。




……ものすごい喪失感。

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