極上な恋をセンパイと。


―――割烹 九兵衛(かっぽう・きゅうべえ)

いかにも老舗って感じの店構え。
真っ白なのれんが、風にのって揺れるのを見上げた。

駅からすぐ。

大通りを一本入ったそこは、都会の喧騒を忘れるほどの別世界のように感じた。




「まだ、先方は来ていないようだな」

「はい」



渡部部長とふたり、静かな個室に通された。

4人がけのテーブル。
そこは、すでにお通しが3つ並んでいた。



「まあ、そんな緊張するな。宇野くんは佐伯と年も近いからな」

「そうなんですね……」


いつになく無言のあたしが、緊張してると思ったのか部長はそう言ってニコニコと人懐っこい笑顔を零した。


「あの、今日は接待……なんですよね?大事な取引があるんですか?」

「ん?ああいや、元々担当だった人が転勤になったらしいんだ。それで、宇野くんが来月から新しい担当になるって事で、一応顔合わせだな」

「そうだったんですね」


……カナマル商事の営業担当と言えば、たしか眼鏡をかけた村尾さんって人だったはずだ。

そうなんだ。あの人から変わるって事か。



「今夜の事は急遽決まったからな。佐伯にはいきなり頼んで申し訳ないと思ってるよ」

「いえ!全然大丈夫です」



フルフルと首を振ったその時。
個室に誰かが入ってくる気配があった。


あ、来たのかな。



「ああ、宇野くん。お疲れ様」

「渡部さん。 お待たせして申し訳ありません」


挨拶が交わされて、あたしも慌てて立ち上がった。


「こんばんは。佐伯と言います。お世話になっております」


そう言いながら、ペコリと頭を下げる。



……。
…………。



でも、一向に返事をされる気配がなくて、オズオズと顔を上げた。



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