極上な恋をセンパイと。
「お、悪い。俺だ」
そう言ってスマホ片手に個室を出ていったのは、渡部部長。
ふすまが慌ただしく締まると、一気に外界と遮断された。
……うわ。
ど、どうしよう。
いくら浩介があたしを覚えてなくても、なにか話さないと不自然だよね。
ふと、浩介のグラスが空いてる事に気付いてあたしは瓶を手に取った。
「どうぞ」
「あ、どうも」
浩介はすぐさまグラスを手に取ると、こちらに差し出した。
トクトクトク……と黄金の液体が流れていくのを見つめていると、小さな息遣いも一緒に耳に飛び込んできた。
視界の隅で、浩介の薄い唇が静かに開いて行く。
ドクン
胸が大きく鼓動を刻んだ。
「……渚……俺のこと、覚えてる?」
や、やっぱり覚えてたのか。
「……え、ええ。もちろん」
「2年ぶりだな。渡部さんに渚の名前聞いた時は正直驚いたよ。まさかここでこんなふうに、また渚と縁が出来るなんて」
そうだ。
あたしは、浩介に……『渚』ってそう呼ばれていた。
でも、いつもってわけじゃなくて。
ちょっと鼻にかかったその声で、渚って呼ばれるのは身体を重ねている、その瞬間だけだった。
頬が引きつりそうになるのを何とか抑えつつ、あたしはそっと瓶をテーブルに置いた。