極上な恋をセンパイと。
「はあ……疲れた」
つい、ため息と共にそんな言葉が零れ落ちた。
やっと仕事を終え、会社を出たのはすっかり陽も暮れた時間だ。
鉛のように重たい足を引きづりながら、後ろを振り仰いだ。
そこには、眠らないビルの群衆があたしを見降ろしている。
「……」
センパイは、まだこのビルのどこかにいる。
渡部部長のチームに加わって、かれこれ9か月が経つ。
その間も、センパイと一緒に並んで会社を出るなんて事は一度もなかった。
あ、一回だけあった。
白鳥百合と、初めて会ったあの日だ。
あの慰安旅行以来、白鳥百合は久遠センパイの所へは来なくなった。
かわりに、真山くんが甲斐甲斐しく受付に通っているらしいんだけど。
『百合さんが』『百合さんが』って、ランチの時にのろけてたっけ。
つい最近の事なのに、ずいぶんと昔のような気さえしてしまう。
それもそのハズ……。
はあ。
これからが思いやられる。
うちの会社に来る浩介に対応するのは、いちばんオフィスにいるあたしなのだから。
「まさか、浩介に会うなんて……」
「俺もビックリした」
「そうだよね。あたしもビックリ……」
……ん?
「こ、浩介っ!!?」
ガバッと顔を上げると、いつの間にか目の前に宇野浩介がいて、ニコニコとあたしを見降ろしていた。