極上な恋をセンパイと。
「……」
……見なきゃ
よかった。
彼女の顔なんて、どうでもいい。
カチャン……。
そっとフォークをテーブルに置くと。
あたしはゆっくりと立ち上がった。
「渚さん?」
「佐伯?」
不思議そうに顔を上げたふたり。
でもあたしは、その視線を受け止める事が出来ずに、キュッと唇を噛みしめた。
そして、小さく息を吸うとやっと言葉を紡ぐ。
「……ごめん。あたし、仕事しなきゃ。先に戻るね」
そう。
仕事だ。
資料、やり直さなきゃ。
センパイが帰ってくる前に。
お金を置いて、飛び出すようにお店を出た。
会社までは少し距離がある。
12月の太陽が、ビルの谷間に暖かな日差しを落としている。
でもあたしは、それを感じることも出来ずに黙々と歩いた。
「……あたし、なにしてんの」
自分で動き出す勇気もないくせに。
センパイがどんな人と会ってるかを確かめに行くなんて
間違ってる。
センパイにはセンパイの付き合いがあるんだし……。
それをあたしが知らなくっても……それは仕方のない事。
わかってる。
そんな当たり前の事、わかってるけど……。
それでも。
知らない女の人の前で、パリで見かけたあの笑顔を見せるセンパイは……
知りたくなかった。