極上な恋をセンパイと。


「ところで久遠くんは、まだ会社かな?」

「はい。 オフィスにいます」

「そっか。じゃあちょっと顔だして行こうかな」



そう言うと、磯谷さんはあたしの両手をガシっとつかんでそのままブンブンと振った。



「あそうだ。渚さん、今夜ディナーでもどう?」

「え。こ、今夜ですか?」

「はは!もちろん、久遠くんもさ。あとは僕の知り合いも同席なんだけど」

「い、いえ……あたしは……」


なぜかズイっと顔を寄せられて、思わず身を引いた。

センパイとご飯なんて、今はごめんです~!



ピクピクと頬が痙攣しそうになって、苦笑いを零した、その時だった。




「磯谷さん。何してんすか」


条件反射のように、バッと顔を上げると。
そこにいたのは、残業してオフィスにいるはずの久遠センパイだった。

ちゃんとスーツを着て鞄を持ってるところを見ると、センパイももう帰るところらしい。


風にフワリとその髪を揺らして、真っ黒な前髪の奥で、切れ長の瞳と目が合った。



うう。


途端に頬が熱くなる。
あたしって……。
自分のバカ正直さに嫌気がさす。


このままこの磯谷さんを連れ去ってー!
なんて思っていると、あたしの手を握りしめていた磯谷さんは半ば強引に歩き出した。



「よし!久遠くんちょうどいいところにっ。さ、行くぞ。ちょっと早いが、まあいいだろう」

「そんな引っ張らなくても、逃げませんよ……」


磯谷さんに、ガバリと肩を抱かれたセンパイはバランスを崩しながらため息をついた。


そんなふたりの背中を、あたしは磯谷さんに手を引かれたまま見上げる。


やだ……。


やだやだやだ!
誰か助けてぇえええ!

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