極上な恋をセンパイと。


…………。


なに、この豪華なお店は……。



純日本庭園を雪見障子越しに眺めて、チラリと視線を上げた。

目の前には、楽しそうに笑う磯谷さん。
そして、隣には……その磯谷さんの話に笑顔で相槌を打つ、久遠センパイ。


なんでいつも、こんな突然なの?
みなさん、あたしの予定ってもんをですねぇ。



ふたりに気付かれないように小さくため息をついた、ちょうどその時。

個室の襖が静かにあいて、誰かが入ってきた。


瞬間香る、甘い香り。


つられるように顔を上げると、そこに現れたのは……。




キュッと引き締まった足首。
真っ直ぐな足に、白い太腿。

デザイン性のあるミニのワンピースを着こなし、肩の上で真っ黒な髪が揺れている。


まるでスローモーション。

世界が、時間をコントロールしていて。
どんなふうにすれば、彼女をもっと魅力的に映せるかを知っているかのように。

……すごく、引き込まれた。




一瞬だったかもしれない。
でもあたしには、永遠に感じる瞬間だった。




「渚さんは初めてだったよね。ほら、ミュウ」



”ミュウ”。

そうだ、彼女だ。

忘れる訳ない。 この子は、あの日センパイとカフェにいた子。


「初めまして。田所美優(たどころみゆう)です。パリでモデルしてます。よろしくね、渚さん?」

「! さ、佐伯渚です。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」


慌てて席を立ち、彼女に向かって頭を下げる。


モデル……磯谷さんの知り合いのモデル……。
前に磯谷さんが言ってた子は……もしかしてこの子の事だったの?

自信に満ち満ちた、完璧な笑顔を向けられたあたしは、なんとか口元を緩める事しか出来なかった。

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