極上な恋をセンパイと。

彼らの話はどこまでも他人事で、あたしにはさっぱりわからない話だった。


ファッションショーの話。
パリでの仕事。
磯谷さんと、久遠さんと、モデルの美優。

あたしはただ、相槌を打って。
とってつけたような、笑顔を浮かべるだけ。


どんなに豪華で煌びやかなお料理も、味なんてわからない。

口の中に広がるのは、ただ苦くて。
あたしは必死に喉の奥に流し込んでいた。

お酒も飲む気になれない。

……この場所から、いなくなりたい。


ようやくお開きになったのは、それから2時間後の事だった。


どこもかしこも、ガッチガチ。

お店を出ると、冷たい空気に一気に現実へ引き戻された気がした。
今までフワフワしていて、なんだか夢の中にいるような感覚だったのだ。

カバンを肩にかけながらため息をつく。


その時、靴音がしてすぐ後ろに誰かが歩み寄った気配がした。


見なくてもわかる。



……センパイだ。




「佐伯」

「……」


どんな顔したらいいのかわからなくて、一瞬振り返るのをためらってしまった。
あたしはキュッと唇を噛みしめて、意を決して顔を上げた。


「大丈夫か」

「なにがですか?」

「いや、いつものお前らしくねえっつーか。 なんかあったか?」


見上げた先のセンパイの瞳は、純粋にあたしを心配していた。
なんの曇りもないその視線は、あたしの心の隅から隅まで見透かしてしまいそうだ。

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