極上な恋をセンパイと。
宇野の誘い
ここ数日。
パリから来たモデル、美優の事で頭がいっぱいだったあたしの元へ、突然浩介が現れた。
「こう、……宇野さん!」
オフィスにひょっこり顔を出した浩介に、慌てて駆け寄る。
「あれ、今日アポとってました?部長も久遠センパイも席を外してて……」
「いや。今日は渚に用があったんだよ」
「え、あたし?」
キョトンと見上げれば、懐かしい笑顔がそこにあった。
その日の帰り。
早々に仕事を終わらせたあたしは、駅前のロータリーにいた。
ここで、浩介と待ち合わせをしているのだ。
たくさんの人が行きかうこの場所には、大きなクリスマスツリーが飾られていて。
キラキラしたBGMに合わせて、その姿を七色にかえていた。
もう、クリスマスかぁ……。
気がつけば、クリスマスまであと10日。
街は、本番を迎えるためにソワソワと浮き足立ってるようだった。
街中幸せと楽しい雰囲気に包まれているのに、あたしの心はなぜかキュッと冷えていて。
思わず身を縮めたその時、ようやく浩介が現れた。
「ごめん!遅くなって……思いのほか残業が長引いてさ。うわぁ、寒かったよな?こんな事なら渚の連絡先ちゃんと聞いとくんだった」
「あたしは平気。 それよりどこに行くの?」
フルフルと首を振って答えると、浩介はすぐさまあたしの肩を抱くようにして歩き出した。
「そうそう。ウマい店紹介してもらえてさ。この前雑誌の編集長と会ったんだけど……」
浩介は、あたしの肩を抱いたまま、楽しそうな笑顔を零す。
ぼんやりとそれを耳に入れながら、記憶は過去へと引きずり込まれそうになった。
……そうだ。
浩介とのデートは、いつもこんな感じだった。
主導権を握る浩介。
あたしは、いつもそれについて行くだけだったっけ……。