極上な恋をセンパイと。
「……ここ?」
「うん。渚はお酒が好きだって言ったろ?だから、酒のバリエーションが豊富な店」
なぜか得意気に言われ、思わず苦笑いになる。
「……あたし、今日は飲まないよ?」
「まあまあ、そう言うなって」
大通りから一歩入った通りにあるこのお店は、静かなジャズが心地良い落ち着いた雰囲気。
クラシック調の家具で統一されていて、バーカウンターに並ぶいくつものグラスやボトルが、まるでスポットライトを当てたように、ぽっかりと浮かびあがっていた。
そう。
このお店は、久遠センパイと初めてふたりで飲んだ……あの、お店だったんだ。
あの時から半年。
ずいぶん昔のような気がして、なんだか泣きたくなった。
あろうことか浩介は、あたしをカウンターに促すと、さっさと自分も座ってしまった。
よ、よりによって同じ席!!?
なんかの陰謀としか思えないんだけど……。
固まっているあたしを見て、浩介が不思議そうに首を傾げた。
「渚、緊張してる?」
「え?」
緊張?
なんで緊張?
人の気も知らないでニコニコと人懐こい笑顔を向ける浩介を、ジト目で睨んで。
あたしは仕方なく腰を落とした。
目の前には、色鮮やかなフルーツ。
あたしはそれを見つめてから、意を決して顔を上げた。
「それで、浩介。話って何?」
コロナを仰いでいた浩介が「ん?」と視線を落とした。
浩介も、意外とお酒強いんだな。
このコロナも、すでに3杯目だ。
「話?……ああ、そうだそうだ」
……む。
忘れてたの?
そんな忘れちゃうような話なら、こんな所まで連れて来ないで欲しかった。
あたしは優しい味のローズヒップティーを口に運びながら、ため息を零した。