極上な恋をセンパイと。


「渚さ。今の会社辞めて、俺のとこに来ない?」


……………え?



「えええっ!? あつッ……」


ガチャン!

思い切り顔を上げた衝撃で、持っていた紅茶が手にかかってしまった。


「おい、大丈夫か?すみません、冷たいおしぼり」

「……」


浩介が店員さんに貰ったおしぼりを、赤くなった手の甲にそっと乗せた。

冷たくて、気持ちいい。



「ドジだなぁ」

「……ありがとう……」


しゅんとしたあたしを見て、朗らかに笑う浩介。


「……」



えっと……。
ちょっと待って?今……浩介なんて言ったの?


サラリと流れてしまった言葉を、もう一度確認したくて。
遠慮がちに視線を上げる。

すぐにその視線を浩介は受け止めて、「痛いのか?」って首を傾げた。


「あの、浩介……さっきの話……」


フルフルと首を振りながら言うと、浩介は表情一つかえずに頷くと。


「そう。引き抜き。 どうかな?渚の噂は渡部さんからも聞いてて、ちょうどそう言う人材を探してたんだ」

「う、噂って……」


あたしが酒豪って言う、あの噂?
そんなのなんの得に……。


ますます信じられなくて、思いっきり不審そうな顔をしたあたしに、浩介は真剣な眼差しを向けた。


「渚は、事務のエキスパートって聞いてるよ?資料制作の速さはなかなかのものだって。その内容は見る者に何を伝えたいか、的確に示してるって」

「そんな事……」


全然違う。

だって、もしそんなふうな噂があって、仮にも誰かが本当にそう思ってくれてたとしたら……。


それは紛れもなく、久遠センパイの指導があったから。
それに今でも小さなミスたくさんするもん。

たくさん怒られて、ダメ出しされてるのに……。


知らないうちに、手のひらをギュっと握りしめていた。

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