極上な恋をセンパイと。

「ぷはぁ!」


……め、めちゃくちゃ疲れたんですけど……!

映画館を出て、たまらず吐き出した息。
それでも苦しくて、喉の奥に詰め物でもされたみたいだ。


ハッと気づくと、後ろからゆっくり歩いてくるセンパイと美優の姿。


……。

あたしはふたりの姿を眺めながら、キュッと鞄の紐を握りしめた。



「お前な、なに先に出てってんだよ。はぐれても俺は探さねぇぞ」


呆れたようにそう言われ、嫌でも初めての海外出張の時を思い出す。



”探さない”


そう言いながらも、あたしをちゃんと見つけてくれたセンパイ。
あの時は、こんなふうになるなんて、全然思ってなかったな。



憧れ。尊敬。かっこいいセンパイ。
大好きな……。



ただ、それだけだったのに。
……あーもう!これ以上ふたりといたら、泣いちゃいそう。



「……映画、凄く素敵でした」


磯谷さんのプロデュースも。
もちろん、ミュウも。

悔しいけど、それは認める。

こんなにもキラキラ輝いてる人に、どうしたってあたしは敵うハズがない。




帰ろう。



「今日は誘っていただいて、ありがとうございました」

「磯谷さん言ってたのよね?渚さんにも是非って」


答えたのは、美優だった。
そう言いながらセンパイの腕に自分のを絡ませた。

当たり前のようにセンパイの隣を陣取った美優。


磯谷さんが……。
そうなんだ。センパイがあたしを誘ってくれたんじゃなかったんだ。

仕方なく、連れて来られたわけだ。
可笑しくて、「あは」って笑ってしまった。


「そうなんですか。それじゃあ、あの。あたしはこれで……」


そう言った時。
いきなり手首を掴まれた。



えッ!!?

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