極上な恋をセンパイと。
「ちょっとわたし、お手洗い行ってきます」
そう言って、美優が歩いて行くのを眺めてからあたしは意を決してセンパイを振り仰いだ。
ラーメン屋を出たあたし達は、タクシーを待っていた。
これからどこへ行こうか、と話していたところだ。
でも……あたしはもう帰りたい。
これ以上ふたりを見ている事なんて出来そうにない。
心がボロボロになりそうだ。
「どうした?」
目元を柔らかく細めたセンパイが、あたしを見降ろした。
う……。
その瞳があまりに優しいから……。
勘違いしそうになる。
センパイは今日一日、とても穏やかだ。
仕事している時の、「鬼のイズミ」なんてどこにもいない。
それは……彼女、美優がいるからじゃないのかな。
どうして今日あたしが呼ばれたのか、もうそんなのどうでもいい。
もう、疲れた。
「あの、あたし……これで失礼します。今日は、ありがとうございました」
そう言ってペコリと頭を下げた。
何か言われる前に、駅に向かって踵を返した。
「佐伯」
「っ!」
歩き出したあたしの腕を、センパイが掴む。
思わずビクリと飛び跳ねそうになって、唇を噛みしめた。
「今日は、1日あけとけって俺そう言ったよな?」
「……」
「帰んな」
「……」
なんで…………
「なんで……?」
もう、ダメだ……。