極上な恋をセンパイと。
「や……やだやだ……離してくださいっ……」
力任せに、言いなりになるのはもう絶対嫌だ。
全身の力を込めて、腕を引けば。
センパイはゆっくりと振り返った。
「なんだよ」
深いため息と共に、そんな言葉が降ってきた。
「……にしないで、……い」
「なんだって?」
消え入りそうな声を聞こうと、腰をかがめてあたしに顔を寄せたセンパイをキッと睨んだ。
「バカにしないでって、そう言ったんです!」
「……俺が、いつお前をバカにした?」
呆れたような声色。
あたしがただ、泣きわめいてると思ってるのかもしれない。
悔しい……。
あたしじゃ、センパイを本気で怒らせることも出来ない……。
「今日だって……、今日だって美優さんとく来るなら、どうしてあたしを誘ったりなんかしたんですか? ……おふたりが仲良くて、親密なのは嫌ってほどわかりましたよ。でも、それをあたしに見せつけてどうしたいんですか!? もうセンパイがわかりません……」
「……佐伯」
止まれ。
止まれ、あたし。
頭ではそう思ってても、一度溢れだした感情は。
マグマのようにグルグルと体の中を駆け巡っているようで、目眩がした。
「……あたしのことは放っておいてください!」
―――パシン!
今度こそ、行き場をなくして固まったセンパイの手。
あたしはそこから視線を落とすと、ギュッと手を握りしめた。
……センパイの射抜くような真っすぐな視線。
無言であたしを見降ろしていたセンパイの、小さな息遣いに背筋がゾクリとした。
「……わかった。もう帰れ」
「……」
俯いた視界から、センパイの影が消えていく。
あたしは顔も上げられずに、その場所から動き出す事も出来ずに。
ただ……立ち止まっていた。