極上な恋をセンパイと。
…………パリ?
「……」
自分の周りの音が、何もかも遮断されて。
部長の言葉だけが、まるで耳元で言われたみたいにはっきりと聞こえた。
「来年度からだが、その関係で今こっちに磯谷さんとモデルの田所が来てるな。
佐伯は、ふたりに会ったらしいな?」
「はい……」
突然話を振られて、慌てて頷いた。
だから、磯谷さんたちが日本に……。でもこの間はそんな話一言も……。
「年末年始は向こうに行ってもらうつもりだ。このチームでの仕事も、あと3ヶ月くらいって事になるが、それまではみんな今まで通り頼むな」
「……センパイ……とうとうパリに行っちゃうんですね。あと3ヶ月かぁ……」
「ま、仕方ないから激励会でも開いてやるか」
真山くんの言葉に、柘植さんが肩をすくめて見せた。
それに時東課長もうなずいて、眉を下げる。
「そうだね、何か計画しよう」
その時、思いついたように真山くんが身を乗り出した。
「あ、また温泉とかどうですか? ね、渚さん」
「え?そ、そうだね……」
それ以外、何も言えなかった。
何も言えずに……ただ、部長から目が離せなかった。
皆知ってたの?
「……」
……いなくなる……。
このオフィスから……日本から。
センパイが……いなくなる……。
全身の力が抜けて、今にも崩れ落ちそうで。
それでもあたしは、必死で立っていた。