極上な恋をセンパイと。
それから、センパイが出社したのは会議のある24日当日だった。
他の企業へと顔をだし、地方へも出向き。
パリへ行くための準備と、色々忙しかったんだって事。
面倒くさそうにするセンパイに、真山くんがあれこれ訊きだしている。
あたしは、なるべくいつも通りにしようとパソコンへ向かい。
出来上がった資料を人数分コピーして、そっとセンパイのデスクに置いた。
会社に来てからも、センパイがこのオフィスにいる事はほとんどなかった。
午前中が過ぎ。
ランチになり、そして午後が始まる。
コーヒーでも飲もうかな……。
顔を上げると、ぐるりと肩を回しずり落ちたメガネをクイッと上げる時東課長が目に入った。
あたしは椅子から立ち上がって、給湯室へ向かう。
―――コポコポコポ
お湯を注げば、コーヒーのいい香りが広がった。
ふたつ分のカップを持ってオフィスに戻ると、いつの間にか久遠センパイが戻ってきていた。
反射的に、扉の前で立ち止まる。
「……」
ガラス張りのオフィスからは、センパイが良く見えた。
時東課長と、何やら話をしている。
真剣な表情で頷いてると思ったら、次の瞬間にはそれがクシャリと崩れ肩を揺らして笑った。
あたしの……好きなセンパイの顔。
冷たくて、無表情なんて。
全然そんな事ない。
意地悪だけど、でもほんとはすごく優しくて。
キスがやたらとうまくて……。
と、その時だった。
時東課長が、突っ立ったままのあたしに気付くとこっちに向かってきた。
そのまま扉を開けてくれる。
「大丈夫?」
「え? あ、はいっ。すみません」
両手にカップを持ったあたしが、入って来れずに立ち往生してると思ったみたいだ。
そうじゃなくて、ですね……。
ただ、センパイを見てたって言うか……。
よからぬことを思い出していたと言いますか……。