極上な恋をセンパイと。
チラリと視線を上げると、時東課長の肩越しにセンパイと目が合った。
久しぶりのセンパイ。
喧嘩別れみたいになってしまった、あの日以来のセンパイだ。
大きな窓から差し込む太陽の光に透けちゃいそうな、サラサラした真っ黒な髪。
ワックスでフワリとセットしてある。
キリッとした整端な顔。
意志の強そうな切れ長の瞳。
真っ白なワイシャツを少し着崩して、無造作に腕まくりしたその袖から伸びる筋肉質の腕には、おしゃれな腕時計。
ドキン。
久遠センパイは、あの時のままだ。
はじめて会議室で会った、あの時のままのまぶしいセンパイがそこにいた。
あの時と違うのは、あたしのこの気持ちだ。
センパイを想って、ベッドに入ってからも眠れなくなってしまった。
あはは。
まさかこんなふうにセンパイを見つめる日がくるなんて……。
あの時のあたしに言ってあげたい。
この人、危険だよって。
「……あの、コーヒーどうぞ」
「淹れてきてくれたんだ。ありがとう」
ニコリと微笑んで、あたしの手からカップを受け取った課長は昔のように柔らかな笑顔を見せてくれた。
もう一つ……。
残ったカップを、センパイに渡そうと一歩踏み出したその時。
「課長、俺またちょっと出てきます」
え、今から?
ハッとして思わず時計を見ると、針は14時半を指していた。
会議……間に合うのかな。
でも、そんな事センパイの事だし、わかってるよね……。
手元のコーヒーに視線を落とすと、センパイがオフィスを出ていく気配がした。
「1時間で戻ります」
「気を付けて」
課長が声をかけると、今度こそセンパイは出て行ってしまった。
「……」
その背中を追いかけていると、いつの間にか隣に並んでいた時東課長が口を開いた。
「――迷ってる?」
「え?」
質問の意味が分からなくて、何度も瞬きを繰り返す。
そんなあたしに、時東課長はスッと目を細めた。
「部長から聞いてるよ。引き抜きの話」
「!」
な、なんでそれを……。
一瞬ビクリと強張った身体。
……でも、時東課長がいつもと変わらないから気が抜けてしまった。