極上な恋をセンパイと。
時東課長は、あたしを椅子に座らせると、向かいのデスクに体を預けた。
「判断を鈍らせてるのは、久遠くんの存在?」
「え?」
パッと顔を上げると、コーヒーカップを傾けた時東課長がいて。
あたしは無意識に唇を噛みしめた。
ぬるくなり始めたコーヒーをジッと見つめる。
「このチームでの仕事も今期いっぱいだし。来年度からは久遠くんの代りにひとり新しいメンバーが入ってくるんだ」
「…………。 センパイは、パリにどのくらい行くんでしょうか」
「どうかな。3年は行くって聞いたけど」
……3年。
「パリに行くのは久遠くんの夢だし、みんな応援してるんだよ」
「はい……あたしも、応援したいです……」
初めての海外出張の時、シャンゼリゼ通りで見たセンパイのキラキラした笑顔。
センパイをあんな風に変えてしまう街に行くことを、応援しない訳がない。
でも……行ってしまったら、きっともう二度と会えない。
それならあたしは、どうしたらいいんだろう。
この気持ちを今伝えても、きっとセンパイの重荷になる。
それだけは嫌だな……。
3年……。
その間にあたしにできること……。
「……先生」
「え?」
顔を上げると、時東課長は小さく目を見開いた。
「あたし……、あたし決めました!」
会えない?
ううん、違う。
会えないんじゃない。
会いたいなら、自分から会いに行けばいい。
センパイのように。
センパイを越えられる人間になって。
そしたら、胸張ってセンパイに会いに行こう!
パリだってアメリカだって、どこへだって追いかけていける。
もう、他人に合わせる自分とは卒業しなきゃ。
夢に向かうセンパイに、恥ずかしくない生き方をしよう。
3年もあるのよ?
大丈夫!
絶対に、センパイに「いい女になった」って、そう思わせてみせるんだ。
そのために、まず始めることがある。