極上な恋をセンパイと。
「……センパイもタクシー乗るんですか?」
煙草をくわえて、ライターをカチッと鳴らすセンパイ。
その姿を眺めながら、なんとなく聞く。
目を細めて、揺れる小さな炎を眩しそうに見つめるその顔から、なぜか視線が逸らせない。
スウッと息を吐いたセンパイの口から、白い煙が上った。
空気に溶けていくその煙を目で追いながら、センパイは口を開いた。
「乗らね。俺は歩いて帰る」
「あ、歩いてですか?」
「酔いさましにな」
そう言ってニヤリと笑う。
……なんか……よくわかんない人だな。
センパイの家は……どこなんだろう。
歩いてって事は、ここから近いのかな。
訊いてみたいけど、なんだかまだセンパイとは距離があって。
真っ黒なジャケットを羽織るセンパイの姿は、夜の闇に溶けてしまいそうで。
ただ、センパイが口にくわえた煙草の真っ赤な光が、ユラユラと揺れていた。
その頼りない光の球は、あたしの心の中でくすぶってる『なにか』みたいに見えて。
それに気付いちゃいそうで、慌てて視線を落とした。
「……酔ってないくせに」