極上な恋をセンパイと。
なんでも、久遠センパイはこの企画を引き受けるかわりに、部長と時東課長に条件を出していたみたいなの。
今回のプレゼンが上手く行ったら、あたしをセンパイの片腕としてパリに同行させること。
もし通らなければ、その話はなしで、センパイは単身行くはずだったこと。
それは磯谷さんもそれを承諾してて……もちろん美優も知っていて。
知らなかったのはあたしだけ。
センパイが会社にまったく姿を見せない間、プレゼンを成功させるためだけに動いていたってあとから聞いた。
「来年度からのことは、お前が決めればいいよ。
ただ、今回は拒否権はねえぞ。俺のそばから離れんな」
「……」
相変わらずものすごーく上からだな……。
「あたし、まだ根に持ってますよ?映画に美優さんもきたこと。
それなのに、パリでも彼女が一緒だなんて……」
「 美優?」
突然名前が出たからか、首を傾げたセンパイ。
あたしはジト目で睨んで、ついでに唇も突き出して見せた。
「だって、美優さん、センパイの事……」
「俺と渚が一緒にいることろ見たら、美優も諦めてくれるかと思って……。いや、あの時は俺が悪かった。配慮が足りなかったよな」
なんなのそれ……。
そんなこと、一言も言われてないんですけど。
「で、諦めてくれたんですか?」
「ん?」
チラリと視線を上げれば、目が合ったセンパイはキョトンと瞬きをした。
「諦めてないんですね」
「拗ねんなって。俺は、お前のモンだろ?」
「……なんですかそれ」
なにそれ!全然納得できないっ。
「もう!センパイはほんとずるい!」
「怒んなよ」
「怒りますよ!」
「っはは。 ん、チケット」
ほら、と渡されたそれを、素直に受け取る。
「……」
渡された紙切れ一枚のチケットが、まるで鉛のように重い。
美優とあたしとセンパイの、3人が目に浮かぶようだ。
はぁ……。
と、その時。
「ーー俺が。
お前を一瞬でも離したくなかったんだ。
それくらい、俺は渚に溺れてんだよ」
「え?」
頭にフワリと手が乗った。
それはまるでなだめるように、優しく跳ねた。
チケットからパッと顔を上げると同時に、センパイはさっさと歩きだしてしまった。