極上な恋をセンパイと。
長い長い飛行時間。
やっとの思いで空港へついた。
現地時間で、すでに夕方の5時をまわっていた。
飛行機に乗ってただけなのに、こんなに疲れるなんて……。
「……センパイ……疲れましたね」
でももうこんな時間だし、ホテルに直行だよね。
とにかく早く靴を脱ぎたい……。
ガラガラとキャリーバッグを引っ張りながら、溜息まじりに言う。
でも、そんなあたしに返ってきたのは、鬼のような一言。
「今から取引先に挨拶行くぞ。 時間があんまりないから急げよ」
「……は、はい」
今から!!?
「ちんたら歩くな」なんて暴言まで吐きながら、さっさと歩くセンパイ。
うそでしょ……。
なんでも、その取引先の会社は、センパイが前に買付に来たブランドで、明日のファッションショーにも出る事が決まっているんだとか。
タクシーでパリの中心部まで約40分ほど。
センパイの流暢なフランス語に度肝を抜かされた。
なんだかニヤニヤした運転手さんがあたしを見て話しかけてきてたけど、センパイはそれをため息まじりにかわした。
え、え?
「Merci」
「め、メルシー!」
終始きょとんとして、呆気にとられてる間に取引先の会社に到着した。
チップを渡してさっさとタクシーから降りるセンパイ。
あたしも見よう見まねでセンパイと同じ言葉を繰り返した。
「Bon Voyage!」
爽やかな笑顔を残して、過ぎ去るタクシーのテールランプをしばらく眺めていると、遠くから声が。
「佐伯! ちんたらしてんな!行くぞ」
「は、はいっ!」
も、もっといろいろ勉強してこればよかったな……。
あたしひとりだったらタクシーすら乗れなかった……。
オレンジ色に染まるビルを眺めながら、あたしは小さくため息をつくと先に行くセンパイの背中を慌てて追った。