極上な恋をセンパイと。
朝靄に包まれたパリ市内。
だけど、もう街は静かに動き出していた。
時計に視線を落としながら、迷いなく歩くセンパイの後を必死で追う。
まず朝一でやってきたのは、昨日の会社だった。
磯谷さんに挨拶をして、それからその足でショーが行われる会場まで向かった。
その頃には、すでにお昼を回ろうとしていた。
「うわぁ……すごい人ですね」
「一般の客に加えて、業界人も結構いるからな。 はぐれんなよ、今日はぐれたら探せないぞ」
「は、はい」
昨日の優しさはどこへやら……。
前を向いたままそう言うセンパイ。
今日はちゃんと気をつけなきゃ。
あたしは気を引き締めて、鞄を握りなおした。
会場内に一歩足を踏み入れると。ショー独自の雰囲気に包まれた。
薄暗い中に、赤いライトが場内を照らしている。
色んな色があるより、こうして照明を赤だけにすることで、気持ちをさらに盛り上げる効果があるんだろう。
色は人の心に、影響を与えるからな。
そう思いながら、会場を見渡していると、すぐに違和感に気付いた。
「……うそ」
センパイ?
今まで目の前を歩いていた久遠センパイの姿が見当たらない。
やだ。
見失った?
足早に進んで前を歩く人の中にセンパイを探す。
だけど、それらしい人がいない。
知らない土地。
見知らぬ場所で、1人になってしまった。
ど、どうしよう……。
念押されてたのに、あたしが会場に気を取られてセンパイから目を逸らしたからだ。