極上な恋をセンパイと。


「初めはどうかなと少し心配だったんだ。君は、どう見ても久遠君に対して恐縮してたしね」

「あ、はは……」


それは今でもそうだと思います。
そう思った事は心の中にとどめておこう。


でも……。



「ありがとうございます、課長」

「ん?」


お礼を言われたのがわからないと、時東課長の瞳がメガネの奥で瞬いた。

少しだけたれ目がちの、いかにも優しいその眼差し。
見るからにこわーい雰囲気の久遠センパイとは違って、この人の体全体から、人柄の良さがにじみ出てる。


あたしは課長を見つめたまま、ニコリと笑った。



「課長はこうして、時々休憩に誘ってくれます」

「……」



そうなんだ。

ほんとに時々だけど、仕事に煮詰まった時とかまるでタイミングを見計らったみたいに、あたしを息抜きに誘ってくれていた。


今日だってそうだ。

きっとあのまま時東課長に声をかけられなければ、久遠センパイが戻るまであたしはぶっ通しでパソコンに向かっていたんだろう。



「課長とこうして話してると、昔を思い出します」

「……昔?」


驚いたように固まっていた課長が、今度は不思議そうに首を傾げた。



「はい。あたしはまだ小学生だったんですけど、その時にうちに来てくれてた家庭教師のお兄さんに課長が似てるんですよ」

「家庭教師?」

「あ。あたしじゃなくて、2つ上の姉に勉強教えてくれてたんですけどね?優しい雰囲気とか、笑った感じとか、課長に似てるなって……なんだか懐かしくなっちゃって」

「へえ。そうなんだね」

「はい。そうなんですっ」


両手に抱えた缶コーヒー。
体だけじゃなくて、胸の中までほっこりしちゃった。

そんなあたしに、課長はただ目を細めてくれていて。
あたしも、ニコニコしていて。穏やかな空気がふたりの間に落ちた、その時だった。



「佐伯っ! ここか!」

「は、はいっ!」



驚いたいきおいでバッと立ち上がる。
休憩室に鬼の形相で入ってきたのは……。


その名の通り……仕事の鬼コト、久遠和泉。

ひえええええっ

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