極上な恋をセンパイと。


「ど、どうでしょうかっ」

「…………」



時東課長との心休まる休憩から一変、あたしは緊張でゴクリと唾を呑み込んだ。

目の前には、出来上がったばかりの資料に目を通す久遠センパイ。

皆帰ってしまった、ふたりきりのオフィス。
デスクの周りだけ明りがついたそこは、昼間とはまるで別次元にいる気さえしてしまう。

聞こえるのは、センパイが紙をめくるその音と。
パソコンの音だけ。


……また、ダメかな。
やり直しかな……。



ドキドキ




「……ん。よく出来てるな」

「はい、すみませんでした……え?」


手元に落としていた視線をパッと上げる。

同じように目線を上げたセンパイと目が合った。


「なんだよ?」


キョトンと瞬きをしたセンパイの動きに合わせて、真っ黒な前髪が揺れた。



「……オッケー、ですか?」

「は? やり直したいのか?」



眉間にグッとシワを寄せたまま、センパイは再び自分のパソコンに意識を向けた。

すぐに物凄い勢いでタイピングが始まる。


ダメだしがない……。
しかも……“よく出来ました”って言った?

く、久遠センパイが……?


茫然と突っ立っていると、そんなあたしに気付いたセンパイが不思議そうに顔を上げた。



「? どうした?出来たんだから帰ってもいいぞ」

「あ、はい……ありがとうございます」



ど、どうしよう……。

嬉しい! 初めてセンパイに認めてもらえた気がする!


震えそうになりながら、椅子に座りなおすとバッグを手繰り寄せた。

スマホを見るとすでに20時をまわっている。



「……」



隣から聞こえるタイピング音は、リズミカルに静かなオフィスに響く。

チラリと視線を上げると、真剣なセンパイの横顔に目が離せなくなった。



……。


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