極上な恋をセンパイと。
「久遠君は他部署の応援に行ってるんだよ」
「……それは知ってますけど。最近ずっとそうじゃないですか。渚さん、何か知りませんか?俺、オフィスで久遠センパイの鬼のようなタイピングが聞こえないと、なんだか締まらなくて……」
「っはははは。イズミのは凄まじいからね~。指先が器用なのかなぁ」
柘植さんが楽しそうに笑って、エレベーターに乗り込んだ。
そこであたしはハッとして足を止めた。
「すみません、あの、あたし忘れ物しちゃって……先に行ってて下さい」
「え、大丈夫?」
すでに乗り込んだエレベーターの中から、時東課長が眉を寄せた。
「はい。すぐに行きます」
「んー。じゃあ先に行ってるよ」
柘植さんが頷いて、エレベーターの扉が閉まった。
慌ててオフィスに戻る。
スマホ忘れちゃった……。
別に持ってなくてもいいんだけど、もしかしたらセンパイからメールが……。
って、メールのやり取りなんて、今までした事ないんだけどね。
大人げなくスマホに依存しかかってる自分に、ツッコんでしまった。
「……」
誰もいないオフィス。
隣の席は、冷たいまま。
パソコンのスイッチは入っていても、動かされた形跡がない。
……そうなのだ。
久遠センパイは、最近ほぼ他部署の応援に行っていて。
朝顔を合わせるだけで、帰りまで見ないという事も珍しくなかった。
最初の頃はよく怒られていた資料作りも、センパイが認めてくれるようになって、今ではあたしがひとりで作業していた。
大変だけど、それでもこうして商品開発に向けた会議に参加出来たり、毎日がすごく充実してる。
ただ、何かが足りない。
それは、センパイがいないからで……。
センパイ……。
怒られてもいいです。
真山くんが言うように、センパイが隣にいないと締まらないんです……。