極上な恋をセンパイと。
「どうしたの渚さん、そんな怖い顔して……」
「え?あたし?」
サバの味噌煮から顔を上げると、すっかり落ち着きを取り戻した真山くんが、遠慮がちに笑った。
いつもの定食屋。
いつものように、課長、柘植さん、真山くん、あたしの4人で机を囲んでいたわけだけど。
「何かあったの?オフィスで」
オフィス……。
『疲れてんなら、ちゃんと休むよーに』
ポンポン……
『だから、わざわざここに来たんだ』
ボンって感じで、頬が火照る。
うんん、もう耳まで熱いかも……。
「佐伯さん?」
と、時東係長が心配そうに見つめてきて……。
「なっ、なな、なんでもないですっ。別にふつうです。元々こんな顔だし。あ、今ちょっとサバから骨が……そ、それかなぁ~……」
って……。わ、我ながら苦しい……。
アハハハってぎこちなく笑って見せたあたしに、真山くんも「へ、へえ。骨っすか。気を付けて」とよくわからない事を言われて、なんとか話を逸らせた。
味なんかわからない。
いつもは頬っぺた落ちちゃいそうな程美味しいご飯が、まったく味しない。
あたしは義務的に、口の中に放り込んだ。
別にあたしは恋愛ビギナーでもない。
23歳のこの日まで、ある程度の恋はしてきたつもり。
彼氏だって、ひとりやふたり……。
――……でも。
それでも、自分の気持ちに気づいたとたん、なんでもない事をすごく意識しちゃって……。
いくつになっても、惚れたら負けってやつなのかな。
「はあ……」
無意識にため息を零し、あたしは最後のお漬物までキレイに平らげた。
……不思議。食欲はいつも通りって、やっぱりセンパイが言う通りあたしは、食いしん坊うなんだろうか……。