極上な恋をセンパイと。
コピー機を見ると、紙詰まりのランプが点滅していた。
あちゃー……。
手順に従って直す。
それでもどこかで紙はつまっているらしく、同じような機械音が鳴り響いた。
ゴソゴソといじっていると、ふわりと甘い柑橘系の香りに包まれた。
顔を上げると、すぐ後ろにセンパイがいて「どいてみろ」と言って慣れた手つきで直してしまった。
うう、すごい……。
どうやったんだろう……。
中からクシャクシャになった紙が一枚取り出される様を、あたしは黙って眺めていた。
腕まくりした袖から伸びる、引き締まった腕。
その存在を主張する真っ黒な時計。
洗剤の香りと、香水の香りがする、真っ白なシャツ。
クシャリと掻き上げられた、えりあし。
細い腰、スラッとした長い足。
艶やかな革靴。
全部、全部久遠センパイを造ってる一部……。
「紙が終わりそうだな。佐伯、用紙補充しとけよ」
「……」
「佐伯?」
「……」
透明な声。
低くて、鼓膜の奥をくすぐられてるような、そんな気さえしてしまう。
やっと。
やっと一緒にいられる嬉しさからか、今日のあたしは変だ。
きっと舞い上がってる。
帰らなきゃ。
これ以上ここにいたら、あたしおかしなこと口走ってしまう気がした。
センパイのタイピングの音も。
コピー機の音も、なにもしないオフィス。
数メートル下で、忙しなく行き交う人々。
車のテールランプ。
まるで宝石みたいなビル街の夜景。
それが、あたしをまるで別世界のように感じさせていた。