極上な恋をセンパイと。
綺麗な花にはトゲがある
穏やかな昼下がり。
まだ、コーヒーの香ばしい残り香がするオフィスに、今日も恐ろしい声が響く。
「佐伯!お前ふざけてんのかっ、なにこんな初歩的なミスしてんだ」
目の前にバン!とファイルが置かれ、ビクリと肩をすくめた。
「すみませんっ!」
「やり直せ、あと1時間でだ」
「い、1時間っ!!?」
思わず声をあげると、ギロリと鋭い視線が飛んでくる。
「出来ないとは言わせねぇぞ」
「……はい」
有無を言わさぬ真っ黒なオーラを放ちながら、久遠センパイは再び自分のパソコンを睨み始めた。
その横顔を見つめ、下唇をキュッと噛み締める。
ううっ、鬼っ!鬼っっ!悪魔っ!
ファイルと資料を手にして、勢いよくそのページをめくった。
なによ、なによっ!
だ、だいたい、元はと言えばセンパイがいけないのよ!
あんな事するからっ!
手を止めて、そっと隣を盗み見る。
そこには、相変わらず物凄い速さで手を動かすセンパイがいて。
その瞳は真剣そのもの。
仕事モード全開って感じ。
いつもと何も変わらない。
全然、なにも。
……あたし、センパイと……キスしたんだよね。
ぼんやりとしていると、ふとセンパイの手が止まり、茶色の瞳がこちらを向いた。
えっ
ドキリと心臓が飛び跳ねる。
何度も瞬きを繰り返していると、絡み合った視線を逸らしたのはセンパイの方だった。
「手が止まってんぞ。ボーっとすんな」
「……」
な、なっ、なっ……!!!!