カルマ
男は目から血を垂れ流し、焦点が全く定まっておらず、生気が全く感じられない。

人間らしい表情も全くない。

まるで、死人が蘇ったような感じである。

「アアアアアアア。」

切腹男が声を上げた。
その声は不気味で、そしてどこか悲しげで、聞いた者の気持ちを非常に不安にさせるものであった。

そして次の瞬間には、切腹男は自分の周りを取り囲んでいた20代前半ぐらいの学生風の男の腕に噛み付いていた。

「ぎゃあああああ!」

学生風の男は、のた打ち回りながら苦しんでいたが、30秒も経たないうちに、さっきの切腹男と同じように体が痙攣し始めていた。

(まさか、あの学生風の男も切腹男みたいになっちまうんじゃないだろうな……。)

杉崎の嫌な予感は的中した。学生風の男も目から血を流し、その表情に生気は全く感じられない。

(ありゃ感染するんだ。間違いない!
噛まれたら、俺もあんな風になっちまうんだ。
嫌だ、俺はまだ死にたくない!)

そう思った途端、とてつもない恐怖が杉崎に押し寄せてきた。

(逃げよう、逃げるんだ。
早くこの場から立ち去れ、
コノママココニイタラ、シヌゾ、シヌゾ、シヌゾ、シヌゾ、シヌゾ……。)
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