カルマ
第1章 オワリノハジマリ
2009年5月8日
金曜日
仙台駅西口バスプール前

空を見上げると、夜空に煌煌(こうこう)と月が照っていた。

5月の心地良い夜風が頬をなでる。

(この季節の風が一番好きだなぁ。)

そんなことをふと思いながら、杉崎啓太は帰宅の為のバスを待っていた。

だが、夜風は心地よく感じられても、杉崎の心は冴えなかった。

杉崎啓太35歳、妻子あり。

昨年、2008年の3月、杉崎は大手出版社の「進化出版(しんかしゅっぱん)」東京本社政治部から、宮城県仙台市のグループ系子会社「異聞堂(いぶんどう)」へ出向を命じられた。

「異聞堂」は、オカルトを専門的に扱う出版社である。

各地の心霊スポットを巡ったり、巷で噂される都市伝説の検証などを行っている。

夏が近くなると、コンビニにDVD付きで1000円ぐらいで売られているような、そのような類の雑誌を作っている。

大手出版社の本社政治部勤務といえば、記者の中でも花形の部署である。

それほどの地位まで登りつめた男が、地方の聞いたこともないような出版社に出向を命じられたのだ。

それは、出向といっても、体の良いリストラのようなものだった。
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