恋スル運命
連れて来られたお店は老舗の料亭だった。




ちょっと、私すごくラフな服装なんだけど大丈夫なの?




けれどジーンズに雪駄姿のアイツを見て、アレよりはマシだと安心してしまった。




お座敷へと通されてまた驚く。




たった3人で食事をするだけなのにすごく広いお部屋。



外には立派な池に鹿威しがついてるドラマなんかでしか見たことのない風景。





社長の頼みとはいえ私、なんて場違いな場所へ迷い込んでしまったのかしら。





下座へと座ったけれど、お酌とか上手に出来るかな?



合コンとかでビールやワインを注ぐのは得意なんだけど、相手が社長で敷居の高い場所となると、勝手が違うかもと不安になる。





お猪口をもった社長にお酒を注ぐ手が心なしか震えてしまった。





海偉へも注いでやるべきなのよね……。





けれど海偉は私からお酒を奪い、


『自分で注ぐから気にするな。お前は俺の隣で飯を食ってればいい。

社長も、今日は手酌でということで構いませんね?』




そう言って私に隣に座るように言った。



『構わないよ。皆見さんも海偉さんのお連れとして呼んだのにお酌させて悪かったね』



社長の言葉に「いいえっ!」と焦って首を振った。



そして気づく。



海偉は私に気をつかってくれたんだ


ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ感謝した。






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