ハッピー☆ハネムーン

いつまでたってもアクションを起こさない慶介。
目を開けると、あたしの隣で横になる彼の姿。



「……け…慶介…?」



ワナワナと震える声で慶介の名前を呼ぶ。
すでに閉じられていた瞳を薄く開けた彼は「ん?」と不思議そうにあたしを見た。



え?


ええぇぇぇええッ!!?



うそぉ…今日も オアズケ?



ってゆうか、あたしがそれ言うのおかしくない?




「今日は疲れただろ。 早く寝なさい」


「……」



いつもの口調であたしを言い負かす慶介。
さっきまであたしの髪を掻き上げていた大きな手が、頭の上でポンポンと跳ねた。


もっとあたしに触れてもらいたかったのに。

急に襲ってくる焦りに、あたしは唇を噛締めた。



「どうした?」



いつまでも座ったまま動かないあたしに、慶介は優しく声をかける。
それは、駄々をこねた子供をなだめる声。

それくらいあたしにだってわかる。




「……」




でも今は、それすら疎ましかった。



そうじゃないよ…

あたしが欲しいのはそう言う「優しさ」じゃない。



あたしは…あたしは……


ただジッとあたしを見つめる慶介に、何も言えなかった。



「…おやすみ」



背を向けたまま布団に潜り込んだあたしを、慶介は自分の胸の中に抱き寄せた。
そしてそっと髪に口付けをしてくれた。


「おやすみ…葵」





ばかばか!!!


慶介のばか…

素直になれないあたしのばか!!




素敵な夜になるはずのハワイの初めての夜は――

胸の中に、小さな穴が出きた。

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