ハッピー☆ハネムーン
ロブスターには食べ方があって、それを1組に1人のクルーがついて手取り足取り教えてくれた。
まずは、専用のはさみを使って頭をとりましょう。
…これが結構、曲者で…か…固いッ!!!
はさみを危なっかしく扱うあたしに、慶介は「貸して」と言って、意図も簡単に赤い殻の中からプリプリの白い身を取り出した。
「…ありがとう。 なんでもできるんだね」
「食った事あるから」
そう言って、慶介は涼しい顔でフォークを口に運んだ。
…こうゆう事でも、慶介には敵わない。
お腹も一杯になり、あたし達は最上階のデッキに出た。
すっかり陽も沈み、代わりに大きなお月様が浮かんでいた。
風も穏やかで、静かな海はまるで鏡のよう。
「気持ちいい」
いくら南国の島、ハワイと言っても夜の海風は少し肌寒い。
潮風が髪を揺らし、ワンピースの裾がふわりと広がる。
捲れてしまわないように、あたしはスカートを手で押さえて木目調の手すりから少しだけ下を覗き込んだ。
そこには漆黒の海が広がっている。
それに、少し背筋がゾクッとしてあたしは慌てて体を起こした。
夜の海って怖いな……
「寒くないか?」
黒い海を見つめていると、不意に背後で声がして、思わず体がビクリと跳ねた。
気が付くと、あたしを包み込むように慶介が立っていた。
手すりを掴んでいたあたしの手。
そのすぐ傍に置かれた慶介の大きな手に、ドキリと胸が反応してしまう。
「平気」そう言って、グッと手に力を込める。
寒くなんかない。だって、慶介が風除けしてくれてるじゃない。
「…海って吸い込まれそうになるね」
あたしは冷静を装って、そんな事を口にした。
ほんとは、この雰囲気に負けそうになってる。
背中には、熱いくらい慶介の温もりを感じて。