ハッピー☆ハネムーン
ちょうど真正面。
あたしは言葉を失った。
「……うそ……まさか…そんな」
肩にかけていたはずのカバンは、力なくズルリと滑り落ちる。
向かい側には、小さなお店が連なっている。
その中にあるアイスクリーム屋のオープン席に、あたしの視線は釘付けだった。
4人がけのテーブルに、見覚えのある顔を見つけたから。
「……慶介…?」
そう、なぜかアイスクリーム屋で緑と赤の体に悪そうな配色のアイスを、おいしそうに頬張っている慶介がいたんだ。
慶介……なわけない。
そこにいる人は、確かに慶介に似てはいるけど、少し老けている感じがした。
歳は……そうだな、30代半ば。
無造作にセットされた少しウェーブがかっている慶介の髪に比べて、彼の髪は長い前髪を右に分けている。
緑のTシャツにジーパン姿だった慶介だけど、彼はキッチリとワイシャツを着ていて見るからにどこかの商社マンだ。
でも……顔……そっくり。
スッと通った鼻筋だとか、形の良い唇だとか。
決して大きくはないけど、切れ長で伏目がちの瞳。
その瞳に見つめられると、あたしは魔法にかかったみたいに自由に動けなくなってしまう。
でも……嫌じゃない。
たくさんある慶介の好きなとこの1つ。
「―――葵?」
「わっ!!」
ぼんやりしている所に、不意に名前を呼ばれてビクリと肩を震わせた。
と、同時にあたしの手からはとうとうバッグが地面に落ちてしまった。