ハッピー☆ハネムーン
行き交う人々があたしを振り返る。
でもそんなの関係ないッ!
「ど……ど…どうゆう事!?」
本日、二度目の顔面蒼白。
まるで餌を待つ水槽の中の真っ赤な金魚のように……
あたしの口は開いたり閉じたり。
パパって……
パパ?
聞き違いにしては、単純な言葉過ぎる。
慶介に新事実!?
――ここへ来て!!?
足に絡みつく幼児を、慶介は固まったまま見下ろしている。
そして、ハッとしてあたしに視線を移した。
「葵……勘違いするな?」
「……な…な」
手に持っていた煙草が子供に当たらないように、自分の顔の高さまで手を上げた慶介は、あたしを見て「落ち着け」と言っている。
これが落ち着いていられるかぁ!!
あたし、自分の知らないうちに“一児の母”になっちゃったんだよ!?
「……なんで言ってくんなかったのォ!?」
「はぁ!?」
「……ぶッ…アッハハハ」
壁にもたれたまま、なぜかお腹を抱えて笑い出だしたアツシ君。
慶介の足元から一向に離れようとしない男の子と。
なんとか彼を放そうとする慶介。
そして、涙を浮かべて訴えるあたし。
何事かと、多国籍の人々の視線が突き刺さるけど、そんなの関係ないんだから!
「――アツシ! 行こう」
そんな空気の中、昌さんの少し震えた声が妙に耳についた。
振り返ると、まだ月島さんはベンチに腰を下ろしたまま、足元にその視線を落としている。