Advance
基本的にマスターと僕は店に住んでいる。
たまに従業員であるホスト達も店に寝泊りする時もあるが、滅多にない。
朝方になると皆、それぞれの塒に帰って行く・・・



「さて、地獄のカップラーメン生活は今日まで(と、願いたい)だ。明日からは本当に肉を食うぞ。」
そう言いながらマスターはガスでお湯を沸かし、それをカップラーメンの中に注ぐ。
「・・・そうですね・・・何か、もう飽きちゃいました・・・あ、3分経ちました。」
そう言いながら僕も時間を計り、蓋を開けて中身を混ぜる。
「・・・ふむ、もうすでに腹を満たすだけの代物と化しているな・・・まあ、常に美味いもんを食ってると贅沢になってしまうがな・・・」
「それを思うと、毎回ドンペリとか頼むお客さんには“ぜいたく”と言う考えは全くないんでしょうね・・・」
「だろうな・・・贅沢な事に慣れるとそれが“贅沢”と感じなくなる・・・慣れとは恐ろしいもんだ。」
子供と大人の会話とは思えない事をよく、僕らは話す。
だけど、そう言う会話は嫌いではない。
マスターの言う事は間違ってはいない(時として正しくはないと思う事もあるが)し、そんな世間的な会話は嫌いではない。
それ以前にマスターとの会話をするのが好きだ。
マスターには裏表がない。
仕事の時・・・たまにお客さんに挨拶する時とかは営業用の作り笑顔ではあるが、それ以外の時は喜怒哀楽が激しい。
だから、ホスト達ですら今、近づいて良い時か悪いか時かも判断しやすいし、僕も“力”のあまりマスターには関係なかったりする。


マスターさえ、居れば僕は今のままでいい―――


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