短編集
俺が「好きだ」と言えば「嫌いだ!」なんて喚きながらあいつは顔を真っ赤にさせる。
少し涙目のあの顔は俺が好きなあれに似ていた。
「あいり」
「……けん?」
「す」
「それ以上言ったら殴るから!」
「まだす、しか言ってないじゃん」
「うっさい」
それきり、お前とこれ以上会話する気はない、と言う合図なのか。百八十度背を向けたあいり。
髪の間から見え隠れする形の良い耳が赤いのは、俺の気のせいだよな。うん。
「…ん…けん」
「ん?」
「…き……」
「んん?」
「っ、好きだって言ってるの!この馬鹿っ」
「馬鹿はないだろ?!」
「あーもう、うーるーさーいー!」
背中を向けたままそう宣言したのはあいり。返事も聞かず脱兎の如く走り出したのもあいり。
走る度に覗くポニーテールに隠れたうなじが真っ赤なのは、きっと気のせいなんかじゃない。
「かなわないなあ」
多分。多分だけど。
今の俺の顔は、あいつが好きなあれに似ているに違いない。
「あいり。今から迎えに行くから待ってろよ」
「好きだ」と言われたのなら、「愛してる」で返さなければ。
(僕らの愛がついに熟れた)