マイワールド
学校には、すでにたくさんの保護者達が集まっていた。
「彩音ちゃんだよね?」
すれ違いかけた女性に話し掛けられた。
「そうですが……。」
「郡司(ぐんじ)裕也の母です。
いつも裕也がお世話になっています。」
彼女は、
Tシャツ姿からは想像できないほど、改まった雰囲気を出している。
「あ……いえ……。」
私は素っ気ない笑顔で答えた。
「これからもよろしくお願いします。
では。」
彼女は私に深く礼をし、
上品にグランドへ向かった。
「ネーヤア!」
ビクン――。
私の体が固まった。
「ハァイィ!」
なんとか、
『ネーヤア!』同じイントネーションで、
柔らかい表情で返すことができた。
恵子が走ってきた。
「どうしたの?」
私は優しく問い掛けるふりをした。
「昨日、彼氏ができたのぉ!
明(あきら)だよ!
サッカー部だよ!
裕也の親友だよぉ!
だから試合見に来たの!
ウチとネーヤアも親友じゃん?
今度、ダブルデートしよっ!
ねっ!
ねっ?」
このテンションの高さは、尋常ではない。
「おめでと。
そうだね。」
私は恵子の肩を叩きながら、
内心、苛立っていた。
「グランド行こっ!
八時半キックオフって聞いたから!」
「うん……。」
せっかくの休日も、恵子につきまとわれてしまったらだいなしだ。
どうにかして逃れる作戦を考え続けたが、
私の腕をがっしりと掴んでいる恵子の手を見ると、
鳥肌が立ち、何もできなくなってしまった。